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 金森修『バシュラール―科学と詩』(2)

バシュラール

三〇年代終盤といえば彼がまさに大きな方向転換をしつつあった時期に相当する。・・・・・・その最初の命題は「詩とは瞬間的な形而上学である」というものだ。詩のなかに、宇宙の展望も、魂の秘密も、存在の秘密もすべてが包みこまれる。もし詩が単に生の時間に従うだけなら、それは生以下のものだ。それが生以上のものになりうるのは、ただどれほど異なる位相の経験でも同時に享受させることによってのみである。そこでは〈本質的同時性〉という言葉が使われているが、それをバシュラールは同時性の定義が特殊相対性理論で問題にされ、それが直観的意味を失ったという物理史的事実を十分知りつくした上でそういっている。複数の固有時が完全には重なりあうことなく互いに分岐し分散していくのを後目に見ながら、幸福な詩的経験は、読解のある瞬間において複数の生の時間を完全に重ね合わせることができる。もちろん物理的定義に即した固有時と瞬間的〈詩的経験〉とをそのまま同等に扱うわけにはいかない。にもかかわらず、そこには物理学と文学という異なる知的領域間を横断するある大胆な糸が紡がれているのは間違いない。(p115)