マラブー.C『わたしたちの脳をどうするか』(3)

もちろん神経科学と哲学のあいだには、少なくともデカルト以来の歴史があることは確かであるが、ここで著者が立脚しようとしているのは、近代以降に構成されてきた哲学や科学の歴史ではなく、「脳そのものが歴史である」という見方だ。そしてその見方を可能にするのが、本書の中心となる概念、「可塑性」(プラスティシテ)である。……可塑性とは、ある物体に力を加えて変形を与えたとき、その外力が取り去られた後にも、痕跡がそのまま残る現象である。……この可塑性に注目すると、脳のかたちが各人に与えられているだけでなく、そのかたちを各人が作りあげてゆくものでもあるという、造形的能動性が全面に出てくる。本書の序文にも「人間は歴史を作る」という有名な言葉が引かれているが、同じように脳はそれ自身の歴史を作る。さらに一歩進めて「脳は歴史である」というとき、そこには歴史という概念を、可塑性を契機にして考え直してみようという挑戦的な意味合いも込められていよう。(p3-p5)