松浦寿輝『増補折口信夫論』(1)

増補 折口信夫論 (ちくま学芸文庫)

増補 折口信夫論 (ちくま学芸文庫)

折口の言葉は、概念的な意味作用の回路を経ることなしに不意に間近なところから迫り上がり、まるで濡れた布が顔にぺったりと張りついてくるようななまなましい触感でわれわれの瞳を覆ってしまう。つい眼と鼻の先にあるはずの言葉が、あまりの近さのゆえにどう瞳を凝らしてみても読むに読めないという、このもどかしさ。(pp11)