安藤礼二『神々の闘争 折口信夫論』(2)

折口が「言語情調論」で絶えず主張しているのは、言語に直接性を回復させることである。言語を、それ自身としてとらえること。言語を間接的な伝達ではなく、直接的な生産としてとらえること。新たな意味を創造するためには、主−客に分離される以前の、言語の創造機能が働いている地平を、直接この手につかみとらなければならない。折口がここで主張しているのは、すべての事象を言語一元論の地平から考える、ということでもある。そこには自我も、そして他者――すなわち世界――も存在しないであろう。この自-他の中間領域に存在するものは、間接的な構成要素をすべてそぎ落とされた、直接的で純粋な言葉だけなのである。(pp62)