樋口浩造『「江戸」の批判的系譜学』

「江戸」の批判的系譜学―ナショナリズムの思想史

「江戸」の批判的系譜学―ナショナリズムの思想史

三教とは、儒家の伝統的な捉え方では儒・仏・道を指すと考えるのが常識であろう。それは中国における代表的な思想を指し示しているものと考えられる。日本においても、近世前期の儒家たちは、この語を中国と同様の意味で用いていた。それに対して、時期を明らかにする能力はないが、三教とは儒・仏・神であるとする考えが、徐々に普及して来たと考えられる。起源をどこまでさかのぼれるかはともかくとして、少なくとも有名な吉田兼倶(一四三五〜一五一一)の根葉花実論(例えば「仏法ハ万法ノ花実、儒教ハ枝葉、神道ハ根本也」)は、そうした思潮の現れと捉えることができよう。つまり、道教に代わって神道を三教に数えようとする試みは、仏教的な三国世界観とも混り合いながら神道家の間に継承され、おそらくは江戸期に入って神道思想の前景化に関わって、浮上してきたと考えられはしないだろうか。(pp199-pp200)